ネネコ・クローネルの冒険記
〜緑光輝の迷い子〜
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第一章(1)
(ネネちゃん、おはよう。今日も良い天気ね)
「……先生」
(ふふふ、まだお寝坊さんなの?顔を洗ってらっしゃい)
「ん……夢……?」
寝言と共にネネコ・クローネルが目を覚ますと、
何時の間にテントの中に侵入していたのだろうか……
二匹のリスが、彼女の頬をくすぐっている事が解った。
「んぅ……おはよう」
目を擦りながら上体を起こすと、ネネコは二匹に声をかける。
人を警戒する様子も無く、少女は胸に抱えると一緒に外に出た。
強烈な日差しがネネコの身体を刺激すると、思わず目を覆ってしまう。
開放されたリス達はそのまま飛び出し、草木の奥へと姿を消した。
ようやく外の光に慣れてくると、大きく伸びをして深呼吸する。
「ううん……ああっ!今日も良い天気!」
オルデマスは熱帯雨林だ。
太陽がより近くに迫ってきているのではないかと錯覚するほどに輝き、
身体からは常に汗が溢れ、体力を奪っていく。
ただ眠っていただけのネネコも、髪が肌に張り付いている不快さを思い出し
顔を洗わなくちゃ……と再度テントの中に戻ると、
リュックサックからタオルを取り出し、ふらつく足取りで泉へと向かった。
オルデマスの中心を流れる大河、リュシードは赤く濁っていたが
この泉は水源が異なるのであろう、透き通った水が溢れ続けている。
口に含むのにも抵抗を感じない。
汗脂を落とし喉を潤すと、ネネコは改めて周囲を見回してみた。
「もうみんな起きてるね。わたしだけが寝坊したのかな?」
オルデマスは生命の宝庫だ。
鳥が鳴く声、サルが吼える声、トカゲ達が草木を掻き分けて徘徊する音。
昆虫が奇音を発して飛び、両性の生物が水辺を徘徊する。
耳を澄ませば、彼等が生きている証を紡ぐ音が幾重にも重なって聞こえた。
「わたしも出発しなくちゃ。日が沈むまでには遺跡に辿り着けるね」
もちろん、ネネコはこの大森林、オルデマスで生活しているわけではない。
世界中を旅する彼女は、何カ国目かに立ち寄った港町、リル・ディスで
「オルデマスの何処かには古い遺跡がある」という噂を聞いたのだ。
特別な理由があるわけではない。
ただ、多いに探究心と好奇心を掻き立てられてしまった。
周りの大人達には止められたが、ネネコは居ても立ってもいられない。
こうなると、自分の目で見て、自分の耳で聞いて、自分の手で触れるまで
もう頭の中がいっぱいになってしまうのだ。今度の場合は遺跡だ。
オルデマスの探検を始めて、すでに数日間が経っていたが
この小旅行も間もなく成就しそうだ。聳える木に登り、ネネコは確認する。
「北西の方角……ほら、見えた!
あそこだけ木々が避けてる。建物も見える……遺跡まで、もう少しだよ」
望遠鏡を片手に地図を広げ、満足そうに笑みを浮かべた。
満足するにはまだ早いのだが……興奮を切り分け出来るほど器用ではない。
ずっと果てに見える河川から、鳥類の一群が一斉に羽ばたいた。
もちろんあちらから見える事はないのであろうが、
ネネコはそちらに向けて大きく手を振った。
「よし……出発だ!」
手際よくテントの屋根を畳み、骨組を折るとリュックサックに固定して
そのまま背負い、勇み足で生い茂る森林の中に足を踏み入れる。
泉を探す為に、思い描いていたコースを迂回して外れてしまった。
まずは着た路を逆戻りする所から始めなければ。
しかし苦労だとも退屈だとも感じない。森林の中は生物だらけだ。
初めて着た時とはまったく表情が違う。
うろうろ、キョロキョロと周囲に注意を向け、
何か見つけるごとに立ち止まったり、また駆け寄ったりするものだから
彼女の旅はいつも、思うようには進まない。
ただ、それで良いのだろう。
湿地帯を抜ける時に、わざと大きく足型を作ってその痕跡を残すと
向こう側から、人が話す声が聞こえてきた。機械の廃棄音も混ざっている。
木陰に隠れて凝視してみると、彼等は人ではなく……異形の怪物のようだ。
「ああ、親分。もう懲り懲りです」
「そうですよ!歩き疲れました。限界です。腹減った」
「うるせえぞお前等!
元はと言えば、お前等がコンパスを壊すから悪いんだろうが!」
「うわ……うわ!何だこのオッサン!」
「都合の悪い事は全部オレ達のせいかよ!」
「ていうか、足パンパンだからその機械に乗せてください」
賑やかな連中だ。まだこちらには気がついていない。
豚面の屈強なオークが一匹。顎が突き出し、牙を覗かせるゴブリンが三匹。
親分と呼ばれたオークは、機械で出来た足組みに搭乗していた。
何処か帝国軍人が扱う特殊アーマーとも似ていたが、
故障している……というより、ジャンクパーツの寄せ集めにも見える。
ただ隠れていても仕方がない。
ネネコ・クローネルは木陰から姿を現し、彼等に声をかけた。