ネネコ・クローネルの冒険記
〜緑光輝の迷い子〜
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第一章(10)
ネネコがゴーストを一瞥し、相手は警戒しているのであろうか、
その場から微動だにせず動かずにいるのを確認すると
そのまま勢いを止めずに、ゴラム三体を惹きつける様に接近する。
(動くのは三体のゴラムだけ……他の石像は動かないんだ……!)
「ウウゥゥン……ウウウゥゥン……!」
接近する少女を懐に迎え入れると、
ゴースト同様に不気味な叫び声を挙げるゴラム達は
各々の武器を力任せに振り下ろす。
轟音と共に地盤が揺れ、石盤は脆くも打ち砕かれて四散した。
だが衝撃の中心にネネコはいない。身を翻して回避したのだ。
姿を捉えきれなくなったゴラム達は二、三分の遅れを取り対象の姿を追う。
果たしてネネコは、ゴラム達の背後に回り込んでいたのだ。
(朽ちかけた石像が闇雲に地面に打ち付けたのに、皹一つ入ってない……
きっと、ゴーストが掛けた魔法で強化されてるんだ……だったら!)
「がああっ!」
響く咆哮に注意を向けると、ネネコが凄みのある表情で構えていた。
ただ操られるのみのゴラム達は臆する事も無く、武器を掲げて迎え撃つ。
「これならわたしも、力を開放して戦える!」
ゴラムの挙動を待つ事無く、今度は正面からネネコが飛び出した。
踏み込みに耐えられなくなった地盤が、ネネコが駆け出すと同時に砕かれ、
悲痛な叫びと共に陥没し、破片が周囲に飛び散る。
「な、なあ……ネネコの奴、身体が重くなってないか?」
「え?だけどさっきよりもずっと、ピョンピョン飛び跳ねてるだろ」
「だったらさ、なんであんな風に地面が割れるんだ?」
身を寄せ合ってネネコを見守るボジョとコポルは、
彼女の戦う姿を見て疑問を浮かべた。
たしかに、目の前の光景には違和感がある。
少女が動き、地面を蹴る度に地盤が砕かれ、盛り上がるのだが
ネネコの身体そのものにも、履いている靴にも変化は見られない。
様子を伺うボジョ達だが、三体同時の攻撃にはついていけないのだろうか、
背後から襲い掛かる攻撃に対して、反応し切れないネネコを前に叫ぶ。
「ネネコ、危ない!」
声が届いたのだろう、逡巡の後に振り返るネネコが、
ゴラムの巨斧を、そのか細い腕で受け止める。
「ぐぅっ……大丈夫、こんなのへっちゃらだよ!」
肘を曲げて巨斧の直撃を防いだネネコは、振り返らずに叫ぶ。
重い音が響くが、むしろ致命打を受けたのはゴラムだ。
巨斧を基点として走った亀裂は、本体腕部まで届いている。
だが意思の通わぬ彼は、省みずその巨腕を振り被る。
攻撃を避け、そして今の様に防いで見せるネネコは頼り強く映るが、
彼女本人はどこか、ひとつ吹っ切れずにいる様子にも見えた。
確かに、優位に立ちながらネネコは未だに一度も、攻勢に転じる事が無い。
猛襲の中、ネネコは父親から教わった言葉を反芻する。
(ただ、傷つけるだけの力は破壊を生むだけ……だけど!)
大剣が振り下ろす豪腕は、斬り裂く、という本来の使い方ではなく
叩き潰す事を只の目的として、ネネコに襲い掛かった。
思わず各々の目を覆うボジョ達だが、目の前に映るのは惨劇ではなかった。
「覚悟を決めたのなら……迷う必要は無い!」
衝撃の瞬間、ゴラムが捉えたのはネネコの骸では無く、
自身の破壊された武器、そして腕部であった。
「ウウォォン……ウゥゥウウ……!」
事態を把握できず、反動に後ずさりするゴラムが悲痛な叫びを挙げるが、
聞き入れる事も無く懐に飛び込んだネネコが、胸部目掛けて拳を奮った。
「でやあああっ!」
一瞬ではあるが、緑色に発光する輝きを放つと、
拳の直撃を受けたゴラムの身体に亀裂が走り、轟音と共に砕け散った。
やがて残骸は塵と化し、力無くその姿を消していった。
「みんなを守る為なら、わたしは戦う!
この子と同じ様になりたいのなら、かかってきなさい!」
衝撃、と呼ぶべきその光景を、宙に浮かぶゴーストは見逃しはしなかった。
彼が見ていたのはその恐るべき戦闘能力ではなくネネコの心の姿であった。
しかし、破壊衝動のみに従うゴラム達は攻撃を止めない。
「懲りないんだから……こんな事を続けたって無駄だって、解って!」
ゴラム達を止めるには、その身体ごと破壊してやる他には無い。
ゴーストの傀儡と化した石像達を葬るには、戦いの中で眠らせるしかない。
(一撃で終わらせる為に……手加減はしない)
「ウウゥゥン……ウウゥゥウ……!」
大剣ゴラムの塵が舞う中、唸り声を挙げながら攻撃を仕掛ける彼等に対し
カウンタを合わせるネネコの拳と蹴撃が、容赦無く彼等を打ち砕いた。
「ネ……ネネコ、スゲー……!」
もはや、操り人形と化しただけの石像には敵う道理は無かった。
三体のゴラムを仕留めたネネコは、深く唇を噛み締めると振り返り、
事態をただ見守っていたゴーストに向けて言い放つ。
「気が済んだのなら、降りて来なさい。
これ以上ゴラムを増やしても無駄だって、解ったでしょう!」
ネネコの瞳は怒りで満ち溢れていた。
ただ傀儡と化した石像が相手だとしても、力は奮いたくはないのだ。
悲痛を浮かべる勝利者の心を受け止めるとゴーストは瘴気を放つのを止める。
「……え?」
再度場の空気が一転するのを、ネネコも感じ取ったのであろう。
鎌を床に投げ出したゴーストの身体は、ゆっくりと変化し始めていた。