ネネコ・クローネルの冒険記
〜緑光輝の迷い子〜
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第一章(14)
しばらくはその場で見つめ合っていたネネコとエルマーだが、
やがてネネコは大切な事を思い出して声を挙げた。
「ああ!……そうだ、みんなは」
幻想的な風景、そして出来事に我を忘れ、心を奪われていたが
ボジョやニッチ、コポルの事が頭から離れてしまっていた事を自覚し
ふいにネネコは慌てふためき始める。
「エルマー、どうしよう。どうしたら、みんなの所に帰れるのかな」
ネネコの様子を見て、エルマーは両の掌を胸の前に掲げた。
すると再度光が溢れ始め、彼女達の眼前が輝き出す。
驚いている間にも光の中から人影が現れ、やがてボジョ達の姿を成した。
「な、なんだ?今度はどうしたんだ?」
「またゴーストの奴が何か……」
「ボジョ、ニッチ!コポル!」
「えっ……あ!ネネコー!」
「良かった、無事だったんだな」
「心配かけやがって……って、ギャー!」
顔を見合わせると、互いの無事を喜んで抱きしめあった。
しかしボジョは何を見たのか、素っ頓狂な声を挙げる……エルマーの姿だ。
「ギャー!ギャー!なんだ、こいつ!」
「に、逃げるか……逃げられない、腰が抜けた」
見知らぬ姿、そしてその巨体に度肝を抜かれ、彼等は取り乱してしまう。
ネネコの体躯の三倍はあろうかというエルマーだ。無理も無い。
エルマーも、ボジョ達の様子に戸惑っているようだ。
予想出来た光景ではあるのだが、ネネコは笑って彼等をいさめた。
「大丈夫だよ、この子はエルマー。酷い事とか、しないから」
「エ、エルマー?」
「うん……わたしの新しい友達。みんなとも何も、変わらないよ」
「な、何も変わらないって……デカいぞ」
「エルマー……オ、オレ、ボジョ。ボジョってんだ」
ボジョは足を震わせ、怯えながらも話しかけてみる。
しかし返事は無い。
エルマーは彼を見つめて瞳を反応させるのだが、ボジョは気がつかない。
「何だコイツ!オレが挨拶してやってるのに!」
「お、落ち着け!怒らせたら大変だ!」
「あはは、エルマーはね……無口なんだよ」
「無口?」
「うん。ちゃんと、ボジョの名前は伝わってるから……ね?」
ネネコが取り持ってくれたおかげで場は収まった。
実際、すでにエルマーの声はネネコにも聞こえないのだが、
少女にとってそれは、些細な問題であるようだ。
「そっか……よろしくな、エルマー」
「オ、オレはニッチ!」
「コポルだ!」
ニッチもコポルも、ボジョに習って自己紹介を済ませる。
お互いの警戒心も少しは和らいだかな……と、ネネコは安心した。
すると突然、ボジョが部屋に響き渡る声で叫んだ。
「あーっ!見ろお前等、一面お宝の山だぞ!」
「え……ギャー!何だこれ……全然気がつかなかった!」
「スゲー!ネネコお前、やっぱり盗賊の素質があるって!」
言い終わらない間に、彼等は階段を駆け下りた。
ニッチは足を踏み外して転げ落ちてしまう始末だ。
「あ……みんな、もうエルマーには興味無くなっちゃったの?」
金銀財宝には興味が沸かなかったネネコは、
気持ちの切替が早く、現金な彼等の姿を見て半ば呆れ、そして笑った。
「これだけあれば……一生遊んで暮らせるぞ!」
「うわあ……夢に見たんだ……宝石の海で泳ぐ夢!」
歓喜の声を挙げてはしゃぐ盗賊団を見ていると、ネネコは安堵に包まれた。
気を緩めると、この一日の疲れが途端に溢れてきた。
すでに日は沈み、外は夜の闇に包まれているだろうか。
「なんだか、眠くなってきたな……ん、えっ!?」
ネネコがエルマーの脚部に寄り掛かると、彼の身体の変化に驚いた。
胸部が展開、腹部が開放され、身体に穴が開いたのだ。
「えっ、わっ……エルマー、大丈夫なの?……ん」
エルマーの身体を覗くと、中には座椅子が構えられている事に気がついた。
どういう構造になっているのだろうか。
首を傾げながらもエルマーの腹部を見回し、物色してみる。
「お腹が開いても……痛くないの?ちょっとだけ、入ってみるね」
恐る恐る様子を確かめながら足を踏み入れてみるが、
エルマーが痛がる様子も無い。ネネコを受け入れているのだろうか。
エルマーの中は、外から見るよりもずっと広く感じられた。
座椅子に触れてみると、柔らかいクッションになっている。
声を掛けながら、ゆっくりと腰掛けてみた。
「わあ……ふかふかだ!エルマーの、えと……座椅子?」
エルマーの内部なのだから、エルマーの身体の一部なのだろうが、
どう呼んでよいのか解らずに戸惑った。
しかし、この座椅子は自分には大き過ぎる。
背もたれまで随分と距離があるので、ネネコは思慮を巡らせていると
さらに戸惑う様な変化がエルマーの身体に生まれた。
「えっ、わあっ……何、座椅子が変形してる?」
ネネコの言葉通り、エルマーの座椅子が変形すると
彼女の身体に丁度良いサイズまで収縮し、やがて安定を取り戻した。
「凄い……もしかしてエルマー、わたしの為にしてくれてるの?
だったら、ひょっとすると……エルマー、座椅子をベッドに変えてみて」
少しの間の後、やはり座椅子は変形を始めた。
ネネコを乗せたまま、今度はゆりかごの形に変わっていく。
「わたしのお願いが、叶っちゃうんだ!……気持ちいい、ふかふか……
そっか、さっきわたしが眠くなったって、言ったからだ……」
エルマーのゆりかごは、ネネコの身体を丁度良く覆っていた。
あまりの心地良さに目を閉じると、重なる疲労のせいもあるだろう、
うとうととしたまま、ネネコの意識は飛び始める。
「ん……ありがとう、エルマー……このまま寝るね。おやすみなさい」
取り残されたのは盗賊団達だ。
宝の山でひとしきりはしゃぎ終わると、ネネコの姿が見えない事に気がつく。
「ギャハハハ!……ん、あれ?またネネコがいない」
「う、うそだろ!」
慌てて階段を駆け上がると、ネネコが消えた代わりに、
エルマーの腹部に穴が開いている光景が目に映った。
「うわっ!ギャー!エルマー、おおお、お前!」
「大丈夫か!お腹……あ、アナ、穴!」
「あっ……おい、お前等静かにしろ」
「……ネネコが、寝てる」
「本当だ、寝てる……」
「何で穴?何で寝てんの?」
三匹で疑問を浮かべるが、ネネコは熟睡しているし、エルマーは無口だ。
顔を見合わせても答えは出ない。
間の抜けた顔でダイヤモンドを握り締めるとやがて彼等は考えるのを止めた。