ネネコ・クローネルの冒険記
〜緑光輝の迷い子〜
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第一章(15)
ネネコがカサヤを訪れてから、二度目の夏がやって来ていた。
山奥の村には深緑が溢れ、夏の虫が煩く鳴いている。
流れる河川にも生命が溢れ、蝶々が水を吸いに舞い降りた。
村人も厚い衣を奥に片付け、汗を拭いながら畑仕事に精を出す。
ネネコ・クローネルは、村中を行き来し、探検を続ける毎日だ。
病に苦しんでいた赤子の頃の姿は記憶の底へと消え、
毎朝元気に挨拶と笑顔を振りまきながら、所狭しと駆け回る。
明快なネネコの姿、そして成長を見守る事は
いつしかカサヤで暮らす村人全員の、喜びとなっていた。
「だあれ?なにしてるの?」
今日もネネコは、新しい発見を見つけていた。
今度は何と出会えたのだろうか。
草陰に身体ごと預けたまま、お尻だけがこちらに飛び出し、動いている。
「ねねだよ。あなただあれ?でておいで」
通り掛かったのは、特別に作られた二輪車を押しながら
診療を終えて自宅に戻るエナ・オプネスだ。
目の前の滑稽な様子に目を丸くすると、すぐにネネコだと解って微笑む。
「ネネちゃん、今度は何してるの?」
エナの声に気がついたのか、お尻の動きが止まり、
ガサガサと草木を揺らす音が響いてきた。
「せんせ?せんせのこえした?どこ?」
お尻を振りながら、這う体勢で後退しながら姿を現した。
やがて頭の先まで外に出ると、しきりに首を左右に振って声を出す。
「せんせ、どこ?」
「ふふふ……ネネちゃん、後ろだよ。こっち」
「あっ!せんせいた!せんせ!」
ネネコはエナの姿を見るなり、満面の笑顔で抱きついてきた。
カサヤで暮らすネネコにとっては、エナが母親代わりだ。
「せんせ」と呼び慕い、いつも彼女の後ろに着いて回った。
服や髪に纏わりついたゴミを払いながら、ネネコに話し掛ける。
「ほら、こんなに枯れ枝引っ掛けて……何をしてたの?」
「あのね、このおくになにかいるよ」
「?……何が居るの?」
ネネコが潜っていた、草陰の穴を見ると小さくて入れそうにはない。
膝を曲げて様子を伺うが、奥の様子は解らない。
「せんせ、みて!なかみて!」
ネネコに促されるので、もう少し身体を屈めて覗いてみるものの、
やはりエナが入るには小さ過ぎる。
それでも目を凝らして様子を確かめようとするが、やはり何も見えなかった。
「いた?」
「……ううん。先生には何も見えないよ」
「いないの?」
ネネコがしょんぼりと縮こまるのを察して、
エナは身体を起こし、目線を合わせて話を聞いてあげる事にする。
「ネネちゃん、何を見つけたの?先生にも教えて欲しいな」
「あのね!あのね……み、みどりいろの……もやもや」
「緑色の、もやもや?」
「みたよ!みどりいろ……」
何の当ても無い事を話しているわけではないようだ。
草木の色の事を言っているのかとも考えたが、
穴の中は光が届かず、見間違えているという事でも無さそうだ。
「そっか……もしかしたら、ネネちゃんにだけ見える、特別な物なのかも」
「と、とくべつ……?」
「ネネちゃんが良い子にしてるから、こっそり出てきたのかも知れないよ?」
「とくべつ」「よいこ」という言葉を聞いて、ネネコは微笑み始めた。
「良い子にしていると、何か嬉しい事がある」、
いつもそう習っていたネネコは、次第に心が温まってくるのを感じた。
やがて、カサヤに昼を告げる鐘の音が響いて来た。
エナは立ち上がると、ネネコと手を繋いで二輪車を起こす。
「さあネネちゃん、そろそろお昼ご飯にしましょう」
「ごはん!おうちかえる!」
「うん」
随分と言葉を覚えて、会話も出来る様になってきた。
外に出掛ければ、何かしら驚きの出来事が起こるのだろう、
帰宅するなり嬉しそうに、話をしてくれる。
村人の誰もが、エナをネネコの母親だと認めていたが、
誰よりも、自分は「代わり」なのだと自覚しているのがエナであった。
しかしだからこそ、彼女にとっては、ネネコの成長が嬉しいのだ。
「ねね、おさらならべるのじょうず」
「そうね、ネネちゃんが並べてね」
「お、おいもむくよ!おてつだいする」
「じゃあ、お願いしようかな。一緒に皮剥きしようね」
「うん!」
小鳥がネネコの頭の上に近づいてくると、
両手を広げ、声を挙げながらネネコは小鳥達を追い駆けた。
その様子を見て、今はこれで良いのだと、エナ・オプネスは微笑んだ。