ネネコ・クローネルの冒険記
〜緑光輝の迷い子〜
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第二章(2)
ネネコが身体を起こすと、ゆりかごは自然と座椅子に変形した。
そうだ。昨晩はそのまま、エルマーの中で眠ったのであった。
普段とは異なる感覚の中で記憶を辿り、不可思議な光景に納得した。
ネネコは夢を見ていた。
懐かしい、思い出の夢だ。
ここ最近は、昔の事を夢に見る事が多くなってきた気がする。
呆然としたまま髪を直していたが、ようやく意識がはっきりとしてきた。
「ん……みんなは?」
座椅子を立ち、エルマーの身体から出るとボジョ達の姿を探す。
視線を落とすとエルマーの足元に寄り集まって、眠っている事を確かめた。
身を縮めて、三匹は小さく丸まって眠っていた。
「ふふふ……仲良しだね」
改めて聖台が祭られたこの部屋を見回してみると、
緑色の発光球体は一つ残らず消えてしまっていた。
しかし何処に光源があるのか、部屋の中は見通し良く明るさが満ちている。
幻想的な印象は薄れ、輝いていた金銀財宝もくすんで見える気がした。
「エルマー、おはよう」
振り返ると、ネネコはエルマーを見上げて声をかけた。
瞳に薄緑の光が溢れ、ネネコの声に応えて見せる。
やはり光は、全てエルマーの中に吸い込まれたのだ。
声は聞こえない。
言葉を話す事は出来ないのだろうか。
ネネコの心に語り掛けてきた声は、たしかにエルマーの物だと感じたのだが。
ふと幻の中で出会った、カラスの影を思い出した。
何処と無く、エルマーとカラスの影は似ている。
「うーん……もう朝か……」
「ネネコ、おはよう」
「目が覚めた?おはよう、みんな」
ネネコに遅れてボジョ、ニッチ、コポルも目を覚ましたようだ。
元々締まりの無い顔が、余計に間が抜けて見える。
伸びをしたまま後ろに倒れると、何か硬い物に頭をぶつけて呻いた。
「痛……クソッ、何だコレ!って、あ……そっか」
「フヘヘヘ……夢じゃなかったんだな!」
「?……みんな、そんな鞄持ってたの?」
「おうよ!しっかり懐に隠し持っていたのさ」
「そうなんだ。何が入ってるの?パンパンだよ」
「そりゃそいつはお前……キギョーヒミツだ」
彼等は自分の鞄を抱えると、だらしない顔で笑って誤魔化した。
ネネコが眠っている間に、財宝を掻き集めてこっそりと詰めておいたのだ。
その様子から直ぐに察しがつくと、ネネコは呆れてしまう。
「……盗っちゃ駄目、って言ったでしょ?」
「な!な!」
「盗ってない!盗ってないぞ何も!」
「へ、変な言いがかりはよせ、ネネコ!」
「じゃあ、見せてごらん」
「駄目!」
「どうして?何も怪しい事は無いんでしょう?」
「プ……プライバシーの侵害って奴だ!」
「お前、難しい言葉知ってるのな」
「いま、咄嗟に出てきた」
腰に手を当てたネネコが迫ってくるが、
エルマーを背にした彼等は簡単に追い詰められてしまった。
元々誤魔化せる物だとも考えていなかった彼等は、苦し紛れの言い訳をする。
「エ、エルマー……エルマーが」
「そそそ……そうそう、エルマーが!」
「?……エルマーが、なあに?」
「エルマーがくれるって言ったんだ!」
「言った言った!この部屋の物は、オレの物だから、って!」
「こんなの要らないから、君達にあげるって!」
「エルマーが喋ったの?宝物をくれるって?」
体勢を変えないネネコが、鋭く睨みつけてきた。
何度も何度も首を縦に振るが、その表情が恐ろしくて声が出ない。
完全に気圧されてしまった。
だが引き下がるわけにもいかない。
必死で鞄を抱え込んで震えていると、ネネコが突然笑い出す。
「あはは……あはははは!」
「え?あ……アハッ」
「アハハハハ!」
「ギャハー!ギャハー!」
意外な光景に呆気に取られるが、事態が好転したのかもしれない。
ボジョ達は釣られて笑い出すが、次の瞬間、恫喝が響き渡った。
「嘘ばっかりついて!駄目でしょう!」
「ギャー!」
「ご、ごめんなさい!」
頬を膨らませて怒鳴るネネコを前に、彼等はひっくり返ってしまった。
怒ると怖い。本当に怖い。
それでもまだ財宝を諦められない彼等は、必死になって嘆願を始めた。
「だって、だって!こんなお宝、滅多にお目にかかれないし!」
「オレ達だって頑張ったし!怖い思いもしたし!」
「一生に一度あるか無いかのチャンス、簡単に諦められるかー!」
顔を真っ赤にして、目に涙を溜めながら訴える彼等は
半ば開き直りの様な態度でネネコを説得して見せるが、
エルマーを一度見上げて様子を確かめたネネコは、仕方なく溜息を零した。
「……もう。しょうがないなあ」
「え?」
「じゃあ、持って帰ってもいいの!?」
「ここはエルマーに免じて見逃してあげる」
「うそっ?やった、バンザーイ!」
「さすがネネコ、話が解るぜ!」
「これでオレ達も、大金持ちだー!」
「ごめんね、エルマー。だけど、いいのかな」
この部屋に祭られていたものだから、エルマー所縁の物なのだろうが、
エルマーは何かを応える様子はない。
特別止める様子もないので、ネネコも判断に困ってしまった。
「ネネコ、まだあんなにいっぱいお宝が残ってるんだけど、どうしよう」
「知らないよ」
「鞄の紐が閉まらないよ!ネネコ助けて」
「知らないってば」
「うわー!底に穴が開いてた…零れちゃうよ、ネネコ!」
「もう……それよりも、どうやって上の階に戻ればいいのかな」
ネネコもボジョ達も不思議な緑光輝の導きでこの部屋に入る事が出来たのだ。
普通の方法では、入る事も出る事も叶わないはずなのだが。
「それなら、通路の先に階段が出来てたぞ」
「え、本当?」
「オレ達も帰り道が知りたかったから探索してみたんだけど」
「丁度、光の中から階段が出てくるのを見たから、びっくりしたよ」
みんなを連れて通路の奥まで戻ってみると、たしかに階段が生まれていた。
見上げてみると、随分と長い階段だ。
他に道は無いので、外に出ようと思うのならば昇ってみるしかないだろう。
「この階段を昇れば……行ってみよう、みんな」
ネネコは先頭に立ち、虹色に輝く半透明の階段に足を進めた。
固く踏みしめる事も出来る。このまま昇れそうだ。
大きな鞄を背負う盗賊団、そしてエルマーがネネコの後に続いた。