ネネコ・クローネルの冒険記
〜緑光輝の迷い子〜
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第二章(3)
虹色の螺旋階段は緩斜でありながらも、遥か上まで延々と続いていた。
円筒状に伸びた空間には光が差し込んでおり、前方が不明瞭という事も無い。
奇妙かつ奇怪な光景だが、不安や不快さを感じる事は無かった。
臆病なゴブリン達もすっかり気を緩めており、
いつもの調子で談笑を交わしながらネネコの後を追った。
「だけどネネコさ、お前メチャメチャ強かったのな」
「そうそう!びっくりした」
「ふふふ……みんなの事は、守ってあげるって言ったでしょう?」
「親分も、あのままネネコに手を出さなくて良かったよな」
「オッサンじゃあ、開幕三秒でノック・アウトだろうな」
「ネネコは、シュギョーとかしたのか?」
「戦い方は、パパから教わったの」
「ふ〜ん……きっと、ゴリラみたいな親父なんだろうな」
「ネネコってさ、もしかして人間じゃないんじゃないの?」
「人間だよ!失礼だなあ、もう」
笑って応えるネネコだが、自分の力の特異さは自覚していた。
だからこそ、拳を奮う時は見極めなければいけない。特別な時だけだ。
自身の力を負い目だと感じる事は無いが、誇示する物だとも考えていない。
力の振るい方、抑え方は父親から学んだ。
父親もネネコ同様、世界を旅する放浪生活を送っている。
特別だからこそ、願わぬ争い事に巻き込まれる事もあるだろう。
時には、自身の力を駆使して、守りたい物と出逢う事もあるかもしれない。
心無き力も、力無き心もまた無力である、とは古人から言われている。
父、ユウマ・クローネルは自身の経験を活かして、
ネネコに戦い方と、人としての在るべき姿を長い時間をかけて説いた。
「あれ?そういえばネネコさ」
「どうしたの、ニッチ」
「あの……オレを助けてくれた時、背中を怪我したと思ったんだけど……」
ニッチは、自身が原因でネネコに傷を負わせてしまった事から、
多少口ごもりながら問いかけるが、裂けた服から肌を覗いてみると
傷が何処にも見当たらないのだ。綺麗に塞がっていた。
「え……あれ?本当だ、もう治ってる……」
ネネコにしても驚きであり、不思議であった。
服には、鎌で切り裂かれた形跡がしっかりと残っている。
襲われた時には、たしかに痛みも走ったのだ。
「ネネコってさ、もしかして怪我が治るのも早いとか?」
「ただ強いだけじゃないんだなあ」
「ううん、そんな事無いよ。こんなに早く治るなんて……」
最後尾を歩くエルマーに顔を向けるが、変わった様子は無い。
治っていて不都合な事など何も無いのだが。
疑問を解消する方法も見つからないまま、ふとエルマーの後ろ、
歩いてきた階段に視線を落とすと、ネネコははっ、として頭を戻した。
「ボジョ、ニッチ、コポル」
「ん?」
「どしたの、ネネコ」
「良く聞いてね?後ろを振り返っちゃ駄目だよ」
「なんで?」
「いいから。見たら駄目」
「後ろったって何も……って、ギャー!」
「ギャー!ギャー!階段が消えてく!」
「どどどどど、どうしようネネコ!逃げなきゃ!」
失敗だった。
見たら駄目、だと言われれば見たくなるのが人の性だ。
ネネコの警告を聞かずに振り返ってしまったボジョ達は、
その視界の中にゆっくりと消え失せていく階段を捉えてしまった。
とはいえ消失していくのは遥か後方の段であって、焦る必要も無いのだが。
「だ、大丈夫だよみんな、急に消える事も無いみたいだし……あっ!」
「に、逃げろー!」
「ここまで来て、死にたくないもんね!」
「わっとと……開いた穴からお宝が落ちてく……でも死にたかない!」
騒ぎ始めたボジョ達は、あっという間に階段を駆け上がってしまった。
騒動の間にも、とくに階段が消失する速度が変化するわけでもなく
ネネコ達の歩調に合わせて、後方から順に姿を消していく。
「……これは、わたしが悪いよね」
頭を掻きながら、ネネコは恥ずかしそうにエルマーを見上げる。
そんな事無いよ、と励ますようにエルマーの瞳に光が灯った。