ネネコ・クローネルの冒険記
〜緑光輝の迷い子〜
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第一章(4)
正午まではまだ大分あるはずなのだが、
時間の経過と共に、刻々と日差しが強くなっていく。
熱帯雨林のジャングルの中を、少女とゴブリン三匹、という
珍妙かつ不思議な一団が草木を掻き分けて進んでいた。
「じゃあネネコは、本当に一人なのか?」
「そうだよ。そんなにおかしいかなあ」
「オルデマスに家があるわけじゃないだろう?何処から来たのさ」
「リル・ディス」
「リル・ディス!?そんな所から、よくも一人で……」
「あの町は快適なんだろ?わざわざ家出してこんな所まで来るなんてさ」
「家出したわけじゃないよ。それに、故郷はアシン領だし」
「アシン?アシンなんて知らないな」
「何処よ?」
「オレに聞くなって……知るわけ無いじゃん」
アシン領というのは、世界の極東に位置する島国だ。
世界の西部、南半球のベイジラ領とは海と幾つもの国を隔てた場所に在る。
ネネコが世界を旅しているというのは、本当の事なのだ。
「一人旅なんてシャレてるなあ」
「お前みたいにちびっこいのが旅してると、何かと大変だろう?」
「んん、大変かなあ……でもさ、わたしよりもあなた達の方が小さいじゃない」
「な!」
「お……お前!オレ達が気にしてる事言ったな!」
「先にわたしの事、ちびっこいって言ったのはあなたでしょう」
顔を真っ赤にして怒り出す彼等の姿を見て、ネネコは笑った。
そういえば、まだゴブリン達の名前も知らない。
せっかくこうして行動を共にしているのに……ネネコは名前を聞いてみた。
「そっか、まだ名乗ってなかったな。一番背が低いこいつが、ボジョ」
「な!……一番太っちょなそいつが、ニッチだ」
「お前ー!一番ヒョロっとしたあいつが、コポルってんだ」
「誰の何がどうだって!?」
「お前のアレがナニだってんだ!」
名前と顔がいまいち一致せずに、ネネコは首を傾げてしまう。
「だけどあなた達、みんな外見一緒じゃない」
「な!な!」
「何言ってんだネネコ、全然違うぞ!ほら見ろ、全然違う!」
「これだから人間の女は嫌だぜー!もっとハートを見てくれ!」
必死になってアピールする姿を見て、やはりネネコは吹出してしまう。
「だからさ、チビがボジョ、デブがニッチ、ハンサムなオレがコポルさ」
「バカだこいつ!自分でハンサムとか言っちゃってるし」
「誰がチビだ、このナル!ナルのコポルー」
「もういいよ、お腹……お腹痛いから」
「笑ってんなよ、ネネコだって充分ちびっこいんだからな!」
初めて彼等と遭遇してから、結構な距離を歩いてはいたが
喧嘩したり取っ組み合ったり、そうした彼等を見ていると退屈はしなかった。
普段一人で行動する事が多いからだろうか、何処か安心感を覚えた。
「なあネネコ、まだ川には着かないの?疲れたよ」
「お前はそればっかりだなあ」
「まだしばらくはかかるよ……疲れたなら、抱っこしてあげようか?」
「やったー!抱っこ、抱っこ!」
「待てよ、疲れてるのはお前だけじゃねえ!」
「そうだ!オレだって抱っこして欲しいよ」
「みんな一度には無理だよ。一人だけだよ」
少女の言葉を受けると、ゴブリン達はまた揉め合い始めた。
ジャンケンをしてもまとまらず、誰が後出しだ、遅出しだと騒ぐ始末だ。
とても疲れているようには見えない。
「なんだ、元気じゃない。もう少しだから、頑張ろうね」
「え……ほれ見ろ!お前等が邪魔するから、みんなでご破算だ!」
「あーもう、暑いし疲れたし腹減ったし……」
川の水が流れる音が、徐々に近しく聞こえてきた。
そろそろ彼等の耳にも届くかな……と、話を切り出してみる。
「ほら……聞こえるでしょう?もう目の前だよ」
「あ……本当だ!これ、水の音だよな!」
「すげー!迷いもせずに辿り着いた!というか、本当に川があった!」
「ネネコお前、超能力者じゃねえの!?よく聞こえたな……」
すでに太陽が真上に来ようとしている時間だった。
長い距離を歩いて来たはずだ。
それでもネネコの耳には水の流れる音が聞こえていた、というのだろうか。
ネネコは得意気になる様子も無く、喜ぶ彼等の姿を見て微笑んだ。
やがて彼等の目でも確認できる距離まで近づくと、
半ば発狂気味にゴブリン達は駆け出してしまう。
川辺の近くはぬかるんでいる。ネネコは注意を促すが、意味は無さそうだ。
「みんな、滑るからね!もっと落ち着いて……あっ」
「ギャー!」
「落ちたー!」
川辺に続く道は、死角になっていたが斜面だった。
勢いを止められない彼等は、そのまま転げ落ちて盛大に水飛沫を上げた。
ネネコは声にならない声を挙げると、焦って傍に駆け寄る。
やがて笑い声と共に、水を掛け合ってはしゃぐ姿が瞳に映った。
心配した自身が、少しだけ恥ずかしくなるネネコであった。
「もう、本当に騒々しいんだから……」
「水だー!水ー!」
「ヒャハハハッ!生き返るなー!」
「そこで魚を釣るんだから……そんなに暴れたら、みんな逃げちゃうよ」
ネネコの声は届かないのだろう。
彼等の様子を尻目に、ネネコはリュックサックを下ろし、
釣り道具や火起しの準備を始めた。