ネネコ・クローネルの冒険記
〜緑光輝の迷い子〜
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第一章(6)
ネネコと盗賊団、彼女達と目的地を同じとする者達が
オルデマスの密生した植物を掻き分けながら進んでいた。
自然溢れる大森林には……いや、この世界には不釣合いな機械兵群だ。
特殊アーマーを駆る彼等は十中八九、帝国軍人であろう。
彼等は特殊アーマーに設置された特殊回線を通して会話している。
「ああクソッ……暑ぃなあ……
やっぱり俺のモルドフの空調、壊れてるんじゃねえか?整備班の奴ら……」
『文句があるなら、自分でやるんだな』
「人にはそれぞれ、担当区分ってモンがあるだろうが!」
四腕、二足の人型の特殊アーマーだ。
体躯につり合った二腕の内側に、人間の腕程のアーム・パーツが覗く。
所謂パワード・スーツの類だろう。人間一人が搭乗して操作する。
モルドフ、と呼ばれた特殊アーマー……特装の後方には
巨大なハサミ状のマニピュレート・アームを構えた寸胴の特装と、
上部に円盤状のレドームを備えた六足の多脚戦車が続いていた。
「さっきから愚痴ばかり。品性の欠片も無いのね」
「あの……相手は一応、上官ですから」
「回線は受信オンリーしてるわ。聞こえやしないわよ」
「あ……信号をキャッチしてますね……はい、オズ・パッセ」
『おいレノット、お前俺と代われ』
「は?代われって……モルドフとオズ・パッセの操縦を代われって事ですか?」
『そうだ。そっちは快適だろう』
「駄目ですよ」
『何故だ!』
「オズ・パッセは精密機械の塊ですから。モルドフよりも繊細なんです」
『おい坊主!そりゃあ一体どういう意――』
会話の途中で回線が切れてしまった。
怪訝な様子で計器の具合を確かめると、隣でマヤ准尉が回線を切断していた。
「ちょ……准尉!困りますよ……まだ少尉と話をしている最中だったのに」
「ふふふ……あなたも中々、言うじゃない」
「え……あっ!い、今の、不味かったですかね!?」
マヤ准尉の指摘を受け、自身の言葉が嫌味であり皮肉である事に気づいた。
血の気が引き、青褪めた表情でマヤ准尉を見返すが援護は無さそうだ。
レノット伍長は彼等の中でも最年少である為、玩具にされる事が多い。
「生意気言いやがって、クソ坊主!後で絞めてやる」
『頭を冷やせ、エッジ少尉。余計に暑くなるぞ』
「うるせえぞゴリラ!この際フィチェンカでもいい、代わってくれ」
ゴリラと呼ばれた、フィチェンカの操者がダグ少尉。
先から喚いている男がモルドフの操者、同じ階級のエッジ少尉だ。
『フィチェンカはモルドフよりも無理な体勢で操縦しなければならないぞ』
「ああ、そうだったな……まったく、面白くねえ」
「エッジ、大概にしておけ」
『そうは言いますがね、ユーノさんよ。この当ての無い探索も飽きてきたぜ』
「当てがあったら、部隊を広範囲に広げて探索する必要も無いだろう」
『正論だよ』
エッジ少尉と同じくモルドフに搭乗する男はユーノ、と呼ばれたが
本名はユノンであり、また階級も上で大尉だ。
少尉の態度は当然、軍隊内においては好ましい物では無いが
それが互いの関係を破綻させるのには至らないようだ。
ユノン大尉は、彼等第一小隊の小隊長である。
「……なあユーノ、機械人てのは一体何なんだ?」
『何、とは?』
「駐屯基地の特装と小隊、大半を動員しての一大作戦任務だろう?」
『ああ……それが?』
「ここまで血眼になって探さなきゃならない理由、ってのは何処にある」
『機械人捜索は帝国本部直々の特命だと聞く』
「だから……その理由だよ。
第一、機械人の詳細さえもほとんど聞かされてないんだろうが。
当ても無く、てのはそういう事だ。ガキの使いじゃないんだぜ、俺達は」
ユノン大尉と話している時のエッジ少尉は、飄々とした態度も影を潜める。
新米のマヤ准尉とレノット伍長は顔を見合わせて陰口を叩いた。
「……たまには、まともな事も言うのね」
「あまり慣れると、いつか本人の前で口を滑らせますよ」
「望むところじゃない」
ダグ少尉は黙って回線の向こうの会話を聞いている。
機械人に対する、ここ数日の任務内容に対する疑問は同様に抱えていた。
「あの亜人の将校さんがウチで指揮を執るようになってからだよな」
『……』
「ユーノ、あんただって指揮権を一方的に奪われた事、憤りに感じてるだろ」
『それは無いさ』
エッジ少尉は探りを入れながら話を進めているのだが、
ユノン大尉には見透かされているのだろう。中々口を割らない。
再度苛立ちが募ってきた少尉は直接問う事にした。
「……言えよ。お前、上から何か、聞かされてるんじゃねえか?」
『聞いているとして、隠す必要が何処にあるんだ?』
「それはそうだがよ」
『情報伝達が密に行われなければ、
作戦任務の遂行全体に支障をきたすだけだろう』
「正論だよ」
『我々、第一小隊の今度の派兵目的は、オルデマスの遺跡調査だ』
「……ああ」
『いまは頭を切り替えて、任務を全うすべきだろう』
大尉が口にしている事は、確かに正論なのだが……
上手く丸め込まれたような、肝心な核心箇所ははぐらかされた感が否めない。
少尉は舌打ちすると、この件に関して問いただす事は止めた。
『大尉』
「どうした、ダグ少尉」
『西方に建築物らしき影を捉えました』
「オズ・パッセに情報を送信しろ」
『了解しました』
「マヤ准尉、レノット伍長。詳細はどうか」
『……判明しました。確かに人工建築物ですね。詳細を調べる必要があるかと』
「よし、全機一度集合しろ。対象の調査を始める」
『了解』
『了解です』
召集がかかるとモルドフ、フィチェンカ、オズ・パッセの三機は動き始めた。
目的が明確となると、その行動にも力強さが生まれる。
疑念を払えないエッジ少尉にしても、いつまでもわだかまってはいられない。
少尉が口にした、亜人の将校……バセス・チルノダ中佐の顔を思い出すと
ユノン大尉も眉を顰め、思慮を巡らせた。
部下の手前、冷静な態度と返答を念頭には置いたが、
エッジ少尉の言葉に対しても同様に納得できるからだ。
「この先に何かあるな……果たして、吉と出るか狂と出るか」
全機が集まると、ユノン大尉は先頭に立って誘導を始めた。