ネネコ・クローネルの冒険記
〜緑光輝の迷い子〜
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第一章(7)
「着いた……オルデマスの、遺跡……」
ネネコと盗賊団は、その後大きなトラブルも無く遺跡へと辿り着いていた。
陽は西の空に沈みつつあり、疲労も溜まってきてはいたが
眼前に悠然と佇む、沈黙の歴史の証人を前にして、ネネコは息を飲んだ。
「知らなかった……オルデマスに、こんな遺跡があったんだな」
「なんか解んないけど、スゲー……」
ネネコ達は丁度、遺跡の正門部分に顔を出す事が出来たようだ。
巨大なアーチの向こう側には、かつて人が住んでいたであろう
石壁に包まれた家屋の瓦礫が彼方まで続いていた。
苔や蔓が幾重にも絡まり、自然の一部と化したその遺跡は
ただ静かに、久方振りの珍客を招き入れる。
「触ると冷たい……きっと、誰も住んではいないよね」
「そりゃそうだろう……だから遺跡って言うんだぞ、ネネコ」
「そういう事じゃないの。情緒が無いな、お前は」
ボジョはコポルに突付かれるが、言葉の意味が解らなかった。
「あ!そうだ……なあ、ネネコ」
「どうしたの、ニッチ」
「オレ達、宝探し始めてもいいか!?」
ニッチが提案するとボジョもコポルも彼等本来の目的を思い出したのだろう、
諸手を挙げて賛同し、ネネコの言葉を促した。
「もちろん。だけど、遺跡を壊したりしたら駄目だからね」
「ヒャッホー!」
「勿論、解ってるって」
「それじゃあ、ここからは別行動ね」
「おし!いくぞ野郎共!」
「フェンブリオ盗賊団の本義、見せてやろうぜ!」
「……誰にだよ」
まとまりがあるのか無いのか、彼等は飛んだり跳ねたりしながら、
遺跡の奥へと姿を消してしまった。
大きく息を零すと、ネネコも遺跡探索を始める事とする。
改めて石壁をなぞってみると、指にびっしりと緑のラインがこびりついた。
雑草が盛り上がり、家屋本来の姿を隠している所を見ると、
遺跡を訪れる人間、そして勿論、手入れをする者も居なかったのだと頷く。
雨風に晒されて侵食、風化した箇所も多いのだろう、
所々、建物の角や屋根は吹き飛ばされたように損壊している。
幾らか進んで石壁をよく凝視すると、何か刻印が刻まれていた。
文字のようだが……ネネコは読む事が出来ない。
当時、ここに住んでいた人々が遺した物だろうか。
少なくとも、いま現在世界で使われている言語では無かった。
「アズ、クエット……フリオ……ううん、駄目。読めないなあ」
ネネコが知る言語に照らし合わせて解読してみようとするが、
やはり古代言語を識るには、生半可な知識では叶わない。
「……この町には、どんな人達が住んでいたのかな」
遺跡中程まで進むと、細かい装飾と彫刻の跡が残る、
他所とは雰囲気が異なる家屋の前へと辿り着いた。神殿だろうか?
先の刻印と同じ、古代文字もそこかしこに目立つようになっていた。
足を踏み入れると、ネネコの耳に誰かの声が聞こえた。
「!……何?」
耳を澄ますが、周囲にはただ、風の音が流れるだけであった。
聞こえた物は、声であったのか……それを聞いたのは、自身の耳であったのか?
もっと自然で、心に染み込んでくるような、暖かい感じがした。
「誰……」
声を待っても、目を凝らしても空間には変化が訪れない。
やがてネネコは吸い込まれるように、奥へと足を進める。
神殿跡は、やはり所々損壊があるものの屋根に包まれ、護られていた。
蜀台の跡も残るが当然火が灯る事も無く、陽の光を遮ってしまう。
広い通路を進むと、行き止まりには巨大な石板が佇んでいた。
石板上部の屋根には大きく穴が空いている。
夕焼けの赤い光が差し込み、どこか神秘的な物として映った。
「やっぱり読めない……なんだろう、変な感じがする……ん?」
石板の裏からだろうか?冷たい風が吹き込んできた。
ネネコは注意深く調べてみると、床に敷き詰められた石と石の間に
小さい亀裂が走っている事に気がついた。
「?……地下から風が流れてくるの?一体、どういう……」
亀裂には、ネネコの二本の腕がすっぽりと収まった。
そのまま力任せに持ち上げてみる。
「なんだろう……ふぎっ、ふぎぎぎぎぎっ……!」
隙間に詰まった粉塵を持ち上げるまでは力を要したが、
その後は意外と容易く床の石板が持ち上がった。
するとどうだろう。地下には隠し階段が眠っていたのだ。
「階段……風も流れてくる。この奥に、何かがあるんだ」
リュックサックを下ろしてカンテラと火起しを取り出すと、
通路の向こうから盗賊団が声を挙げながら駆け寄ってくるのに気がついた。
「本当だ、やっぱりネネコだ」
「おーい、ネネコー!」
「みんな!みんなも声を聞いてここに来たの?」
ネネコは思わず聞いてしまうが、
彼等は互いの顔を見合わせて怪訝な表情を浮かべる。
「声って何だ?」
「何も聞いてないけど……」
「そっか……」
「それよりネネコ、一体こりゃ何だ?」
「床の下に、隠し階段を見つけたの」
「隠し階段だって!?お宝の匂いがプンプンするな」
「ネネコお前、盗賊の素質があるんじゃないの?」
「それは解らないけど……これから、潜ってみるんだ」
階段の奥には光が届かないようだ。
闇に包まれていて、その先までは見えない。
「なんか怖いけど……こういう場所にこそお宝はあるんだよな」
「よし!オレ達も行くぞ!」
「それじゃあ、みんな一緒に行こうか」
カンテラに光を灯すと、ネネコを先頭として
ボジョ、ニッチ、コポルの三匹が後を追った。
(みんなには、何も聞こえなかったんだ……気のせいなのかな?
だけど、あの感じは……)
再度ネネコは、心と身体を吸い込まれるような感覚に包まれた。
この先へと自身を進ませるのは、己の意思か、他者の思惑か。
不思議な感覚ではあったが、それは不快感では無かった。