ネネコ・クローネルの冒険記
〜緑光輝の迷い子〜

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第一章(8)


階段の先は石壁と石床が何処までも続く地下通路となっていた。
地下とはいえ、湿った空気が満ち溢れているという事は無く
鍾乳洞内部の様な冷気に支配された空間となっていた。

穏やかではありながらも、背筋を撫でるような感覚の中で
ネネコ達は鳥肌が立つのを抑えられずにいた。

「ボジョ、ニッチ、コポル……そんなにくっついたら、歩き難いよ」
「だ、だって怖いんだもん」
「さささ……寒いしさ……」

「平気だよ。怖い人が出てきても、追い払ってあげるから」
「お、脅かすなよネネコ!」

たしかに、幽霊や物の怪の類でも現れそうな雰囲気ではある。
ボジョ達は何処か挙動不審に周囲を見回しながら、
決してネネコの服の裾を離そうとはしなかった。

やがて一本の地下通路は二手に分かれ、分岐点となっていた。

「なんだ?どっちだ?」
「間違った方に行ったら……落とし穴とか!?」
「オバケに襲われるかも……」

「変な事言うな!」
「だ、だってさ!」

彼等が互いの不安を煽りながらも揉める中、
ネネコはひとり、頭を働かせて悩んでいた。
カンテラを前にかざし、前方の様子を伺ってみる。

闇に包まれた彼方はやはり肉眼で確認する事は出来ないが、
この様子では、分岐点は今後も続いていくだろう、と予測した。

思考も纏まり切らない中、足を一歩前に出すと、再度声が聞こえてきた。

「!……また声が聞こえる」

ネネコの身体が一瞬硬直し、警戒した声を挙げるので
ボジョ達の不安は一層増してしまうばかりだ。

「え、何?どうしたんだ、ネネコ!」
「いま……みんな、何か聞こえなかった?わたし達じゃない、誰かの声」

「や、やめろよ!ネネコまでおかしな事言うなって!」
「何かって……何も聞こえないって」

(やっぱり、みんなには聞こえないんだ……だけど、はっきり届いた。
「こっちだよ」って……わたしを呼んでるの?)

声の正体の事を彼等に問い質しても、無闇に怖がらせてしまうだけだろう。
何よりも、自分自身検討も判断もつかない。
だけど、疑わしい相手じゃない……何故そう断言できるのかも解らないが。

「……みんな、こっちだよ。ついてきて」
「う、うん」
「ネネコ、ひとりで遠くに行ったら駄目だからな!」

ネネコは声の誘う道を選び、足を進める事にした。
やはりその後も、分岐点は増すばかりだ。
三分岐点、五分岐点と、奥へ進む度にその複雑さも多用化していく。

その度に声が聞こえ、ネネコを導いてくれた。

(誰なの……だけど、あなた……ずっと前から、わたしの事……)

ネネコは何時の間にか、声を会話の対象としている事に気がついた。
これは幻聴じゃない。たしかに相手がいて、自身と向き合おうとしている。
しかし、こちらからの呼び掛けに対して、声が応える事は無かった。

「な、なあ……やっぱり、引き返さないか?」
「何言ってんだよ!いまさら……」
「でも確かに、これ以上進むのはヤバい気がする……ネネコ?」

「うん……嫌な感じはする」

「ほ、ほらな!」
「だけどわたし、先に進みたい。誰かが待っている気がするの」
「誰かって、誰だよ!」
「解らない……」

普段、ネネコは顔も身体も、こちらに向けて話をしてくれるのだが
いまは違う。何か話し掛けても、声だけが返ってくる。
返答が不自然に遅れる事もあった。

ネネコの様子がおかしいので、彼等も余計に不安になる。

「帰りたいけど……もう、帰り道なんて解らないし……」
「大丈夫だよ、怖くない……大丈夫」
「う、うん」

地下通路には絶えず、冷風が吹き込んで来ていたが、
やがて微風は強風へ、そして豪風へと変わっていった。

「な、なんか風がどんどん強くなってる!」
「カンテラの灯が消えちゃう……みんな、くっついて!離れちゃ駄目!」
「わ、解ってるけど!」

まるで通路の奥に佇む主が、彼等の侵入を妨げているかの様だった。
足を持ち上げたら飛ばされる。少しずつ、摺り足で前へ進む。
両目を開けているのも辛くなってきた。壁に手を沿え、足を踏ん張る。

(どうして?わたしを呼んでいるんじゃないの?来て欲しくないの?)

ネネコの耳に届く声は、先までのようにひとつではなく、
幾重にも重なって何人もの感情が入り乱れ、
言葉の嵐となって彼女に身に襲い掛かってきた。

ネネコも押し戻されないよう、吹き飛ばされないようにと必死である為、
その声を聞き分ける余裕などは無かった。

「わたしは……わたしは、あなたに会いたいの!」

自身の声さえも掻き消してしまう嵐の中で、ネネコは絶叫した。
すると偶然だろうか、冷気の嵐はぴたりと止んでしまった。

息を切らしながら平静を取り戻すと、
通路の切迫した威圧感は消え、広間に到達している事に気がついた。

「な……なんだ?」
「迷路はもう、終わったのかな……」

広間の中心辺りまで彼女達が歩み寄ると、
闇に包まれていた空間に光が灯り始めた。

薄緑の、蛍火の光だ。

よく目を凝らすと、ドーム状に広がった広間の壁に沿って、
幾つもの石像が立ち並んでいる事が解る。
石像はそれぞれが異なる頭部と武器を掲げ、
何体か置きの石像が光の蜀台を携えていた。

緊張が解け、身を寄せ合うのを止めたネネコ達は周囲の様子を確かめるが、
ネネコは場の空気が一転したのを肌で感じ、ボジョ達に向かって叫ぶ。

「みんな、下がって!」

ネネコの声が響き渡るのと同時に、だろうか。
広間の中心に光と影が溢れ始め、やがて悪鬼の様な姿を現した。


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