ネネコ・クローネルの冒険記
〜緑光輝の迷い子〜
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第一章(9)
突如姿を現した悪鬼は、眼部と口部だけが白色に発光し、
体躯程もある巨大な鎌を構え、ネネコ達を見下ろした。
獣の様な唸り声を挙げる度に、口部からは紫色の煙が溢れ出る。
同時に身体から瘴気を発し、空間を圧迫感で満たす。
「ギャー!で、出たー!」
「死神だ、オバケだ、ゴーストだー!」
ネネコの警告も虚しく、腰を抜かして気が動転した彼等は
半ば錯乱気味にゴーストを指差し、怯えた。
(この人じゃない……この人には、敵意しかない!)
ネネコの心に語り掛けてきていた声の主とは違う。
警戒しなければならない相手だ。
咄嗟に感じ取ると腰を深く落として構え、ネネコは相手に問う。
「わたしはネネコ……あなたは誰!?」
「オオオォォオオォ……!」
「来る……みんな、逃げて!」
「わ、解った!」
「ホイ来た、それ逃げろー!」
ボジョ達が逃げ出そうと動き始めるのと同時に、
ゴーストは咆哮を上げ、ネネコ目掛けて急降下を始める。
「オオオォォオォオオォ!」
心の弱い者であれば、魂を抜き取られてしまいそうな雄叫びだ。
ネネコに接近するのと同時に鎌を振り下ろしてきた。
その軌道を見切ったネネコは後ろに飛び跳ね、鎌は大振りに終わる。
「やめて!何をするの……あなたは誰なの!」
ネネコの言葉に応える様子は無い。
外した鎌をそのまま遠心力に乗せ、さらに攻撃を仕掛けてくる。
薄緑の光が溢れる穏やかな闇の中で、ゴーストの瞳が激しくスパークした。
(言葉が通じないの?……この人、急所ばかり狙ってくる!)
横に大きく転がって回避し、体勢を整えながらもネネコは戸惑った。
鎌に触れれば、間違いなく生命を落とす事になるだろう。
「ハァ、ハァ……ゼェ、ゼェ……何なんだ、あいつ…」
「大変だ、ネネコが逃げ遅れた!」
「な、なんだって!」
ネネコは始めから逃げる気は無かったのだが、ボジョ達には
ゴーストに襲われて絶体絶命のピンチに見舞われているとしか映らない。
「こ……こんにゃろ、怖いけど!」
「股座に隠した、オレ達のパチンコ玉を食らえー!」
「鉛球の餌食だぜー!」
取り出したパチンコをゴーストに向けると、彼等は一斉に発射する。
気配を察したネネコは彼等を制止するが、もう遅い。
「みんな、駄目!迂闊に手を出したら……」
だが鉛球は勢い良くゴーストの身体をすり抜けてしまう。
本当に幽霊なのか?ボジョ達だけでなく、ネネコも驚愕の声を挙げた。
「実体の無い相手なの?……はっ」
離れた床にパチンコ玉が落ち、ゴーストはゆっくりと振り返る。
先までは眼中に無かった様子だがボジョ達を一瞥すると身体を硬直させる。
ゴーストの動作を見落とすネネコではない。一瞬の判断の後、駆け出した。
「ニッチ、ニッチ逃げて!狙われてる!」
「え、えっ!?」
しかし彼等はネネコの様にはいかない。身動き一つ取れなかった。
ゴーストは鎌を構えると、凄まじい速度でニッチとの距離を詰める。
「わ、わああっ!」
「ニッチ!」
「オオオォォオオォ!」
鎌は振り下ろされるが、ゴーストとニッチの間にネネコが割って入った。
切り裂かれたのはネネコだ。
「ネネコー!」
「うあっ!ぐっ、うっ……」
ニッチを抱き抱えたネネコは埃塵を巻き上げ、勢いに任せて倒れ込む。
ネネコの動きを捉え切れなかったゴーストは何処か怪訝な様子で見守る。
何が起きたのか理解できなかったニッチだが、
自身を抱えるネネコの背が裂け、血が滲み出ているのを見て叫んだ。
「ネ、ネネコ!大丈夫か、ネネコ!」
「う……平気。こんなの、かすり傷だよ」
「だ、だけど血が!」
ネネコの傷は浅く、急所には到底到達しなかったのだが、
赤い血が流れるのを見たニッチは震え出してしまう。
背後のゴーストを一度睨むと、ネネコはニッチ達に声をかける。
「このままじゃ、みんなただじゃあ済まない。
わたしが食い止めるから、みんなはひとつにまとまって逃げて!」
「食い止めるたってよ!」
「大丈夫……みんなを守るだけの力はあるから。
だけど、バラバラに逃げたら、それも叶わなくなるから……いい?」
額に脂汗を浮かべたネネコは、無理に笑顔をつくりながら彼等に告げると、
答えを待つまでも無く立ち上がり、ゴーストに対して向き直す。
「あなたの相手はわたしだよ!今度みんなに手を出したら、許さないから!」
少女の覚悟を見極めると事の成行きを見守っていたゴーストは鎌を振り上げ
混濁した怪しい光を放出した。するとどうだろう、
周囲に佇んでいた石像達の瞳に光が灯り、やがて行動を始めた。
「ネネコ……」
「ニッチ、大丈夫か!」
「う、うん……だけどネネコ、怪我してた」
剣を持つ者、槍を持つ者、斧を持つ者。
顔部が禍々しく歪むと、ネネコ目掛けてゆっくりと迫ってくる。
ゴーストはネネコの頭上で静止したまま、再度様子を伺っているようだ。
「今度はゴラム……誰が相手でも、わたしは負けたりしない!」
ゴラムの攻撃を待つまでも無く、ネネコは駆け出した。
各々の武器を振り上げたゴラム達は低い唸り声を上げて少女を迎え撃つ。