ネネコ・クローネルの冒険記
〜緑光輝の迷い子〜

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第二章(4)


コポルが転々と落としていった宝石をひとつひとつ拾い上げながら、
ネネコとエルマーはようやくボジョ達に追いついた。
緊急時の行動力は相当な物だとネネコは苦笑し、彼等の姿を見て安心した。

「みんな、早いね」
「バカー!ネネコが驚かすからだろう!」
「ご……ごめんね」

息を切らしながら座り込んでいたボジョ達の足元は、
虹色の階段では無く、周囲の壁と同じく石盤となっていた。
光で形成された階段はここで終わりのようだ。

ここからは、見慣れた石の階段が続くらしい。
薄暗さが強くなっているが、見上げると外の光が差し込んで来ていた。

「あれは……陽の灯。外に出られるみたいだね」

エルマーが石盤の地面に足を止めると、虹色の階段は急速に消失した。
前に進むしかないようだ。
元よりそのつもりだが、地下探検もこれで終わりか、と名残惜しくなる。

「……さあ、立って。行こうか、みんな」

再度ネネコを先頭にして一団は進む。
地下に足を踏み入れたのは夕刻から朝方にかけての間ではあるが、
体感的にはずっと、長い間探検を続けていたように感じた。

一段を上がるごとに外から差し込む光が強くなり、
ネネコはその度に、感慨深く階段を踏みしめた。


「到着だ……これより、オルデマス古代遺跡の調査を再開する」
『了解です』

「あいよ。モルドフはこのまま、特装装備で記録を残せばいいんだろう」
『ああ。遺跡南西部、昨晩の続きから始めよう』
「おいレノット、植物の被検体採取は任せるぞ」

「はい、了解しました」
「じゃあ、行ってらっしゃい」
「は?あの、マヤ准尉は出ないのですか」

「誰かがオズ・パッセに残って、記録の送受信を行う必要があるでしょう」
「じゃあ、僕が残って准尉が出るというのは」
「後部ラックを開けたわ。機材を出して、早く行きなさい」

「は、はい……」

普段と同じ調子で押し切られてしまうレノット伍長は、
しぶしぶ開閉扉を開けて外に出た。
空調の効いた内部と違って、直射日光の真下はうだるような暑さが広がる。

「あ、暑いなあ……」
「さっさと閉めなさいよ」
「す、すみません」

准尉の思惑も全て解った上で、不満を感じていながらも頭を下げるしかない。
頭を垂れながらハッチを閉めて後部ラックに移動すると、
今度は大柄のダグ少尉に捕まってしまった。

「遅いぞ。急げよ、伍長」
「はい!いま……準備します!」

フィチェンカに搭乗していたダグ少尉も、そのままでは調査が出来ない。
レノット伍長と同じ様に、生身で機材を扱う必要がある。
すでに後部ラックから必要機材を取り出し、背中に背負っていた少尉は
待ちくたびれた様子でレノット伍長を睨みつけていた。

「……大丈夫なのかね、あの坊やは」
『ふふ……さてね』

特装ごしに彼等の様子を伺っていたエッジ少尉とユノン大尉は、
先輩達に揉まれる新米兵士に苦笑し、手早く記録を残し始めていた。
内容がそのままオズ・パッセに送信されてくるが、マヤ准尉は呆けている。

「……はあ。暑苦しいのよね」


「外だ!」
「ふぅ、ふぅ……やっとこさ到着だな」

長い階段も終わり、ネネコ達は広い空間に出る事が出来た。
最初に隠し階段を見つけた場所のようだ。
明らかに内部構造が変わっているのだが、ボジョ達は気にする様子も無い。

天井に開いた穴からは、ガラス色の光が差し込んでいた。
入る時には夕刻の赤味が強烈な印象を強くしていたが、
こうして見ると、古代文字が刻まれた巨大な石板も、また別物として映る。

「みんな、お疲れ様。色々あったけど、楽しかったね」

「うん。だけどもう、怖いのは懲り懲り」
「お宝が手に入ったのは、最高だけどな」

「わたしも……オルデマスの遺跡に来て、良かったよ」

ネネコはエルマーを見上げて微笑む。
純白のエルマーの身体は、陽の光を受けて輝いている。

「じゃあネネコ、これでお別れだな」
「えっ?」

不意を突かれてしまった。
だが思い返せば、宝探しが目的で同行したボジョ達だ。
鞄一杯に宝石を積み込み、達成する事が出来た彼等とお別れでも仕方ない。

「……そっか。そうだよね」

「なんだよ。そんなにしょぼくれちゃってさ」
「またそのうち、どっかで会えるんじゃないの?」

「うん。そうだね」

多くの国を訪れ、多くの人達と出会ってきたネネコだが、
別れの時を迎える時は何時だって寂しさを味わう事になる。
慣れるものでもないだろう。

小旅行の中では、彼等を率先して導いてきたネネコも
この時ばかりは気後れしてしまった。

「じゃあ、そういう事だ」
「またな、ネネコ」
「ありがとう、って何度言っても足りないくらいだけど……お別れだな」

「……ん、わたしも楽しかった。みんな、またね」

「今度ばかりは、フェンブリオ盗賊団の完全勝利だぜー!」
「ギャハハー!山の様なお宝を、山の様なご馳走に変えてやるぜ!」

歓喜に震えながら騒ぎ始めると、砂埃を上げながら、彼等は行ってしまった。
別れる時は、随分とあっさりとしたものだ。
物事の割り切りの良さは、ゴブリンと人間では異なるのかもしれない。

「……行っちゃった」

ボジョ達の姿が見えなくなるまで、ネネコは小さく手を振っていたが
いよいよ闇の中に彼等の声が消えてしまうと、大きく肩を落とした。

目を伏せるネネコの様子を、エルマーは静かに見守っていた。


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