ネネコ・クローネルの冒険記
〜緑光輝の迷い子〜
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第二章(5)
心にぽっかりと穴が開いてしまったかのような消失感を覚えていたが
まだもう一つ、小さな寂しさを覚えてしまうのかもしれない、と
エルマーに振り返ったネネコは考えざるを得なかった。
「そうだ……エルマーは、どうするの?」
虹色の階段の先、地上の神殿までついて来てくれたエルマーだが、
この先はどうするのであろうか。
「やっぱり、地下のお家に帰るの?」
問い掛けながら、ネネコは胸が苦しくなった。
出来る事なら、このまま一緒に旅を続けたい。
ボジョ達とだってそうしたかったが、この願いはネネコの我侭だ。
エルマーの声が返って来る事は無い。
エルマーは言葉を話す事が出来ないからだ。
「……エルマーの言葉が解ればいいのに。
無理やり連れて行ったら、ひどいもんね」
そのまま、ネネコは俯いてしまった。
少女の様子を見ていると、エルマーも悲しい気持ちに包まれた。
どうにかして、自分の声を、気持ちを伝えたい。
エルマーは前に進むと、ネネコの両脇に巨大な腕を入れて抱き上げた。
突然の事に驚き、動揺するネネコは声を挙げる。
「え?何……どうしたの、エルマー」
しかし抵抗するわけではない。
エルマーがネネコを優しく抱きしめると、やがて温かさが伝わってきた。
敵意も悪意も無い、ただ柔らかで包み込む様な穏やかな感覚。
「……エルマーの身体、温かいね……ぽかぽかするよ」
穏やかさと安らぎを胸一杯に感じたネネコは、ゆっくりと瞳を閉じる。
すると、ネネコの頭の中に言葉が入り込んできた。
いや、言葉よりも自然で、心に染み込んでくるような意思。
「!……これは……エルマーの声?エルマーが、お話してるの?」
はっきりとした単語が並んでいるわけではない。
言葉とは違う…やはりそれは、意思と呼べるものであろうか。
『ネネコ……一緒……連れて行って……』
「ネネコ……わたしの名前を呼んでいるの?」
『エルマー……一緒……旅をしたい……』
「エルマーの気持ち、なの……あなたは、わたしと一緒に旅がしたいの?」
声が届いた。
エルマーはゆっくりとネネコを下ろしてあげると、真っ直ぐに見つめ返した。
瞳に緑光輝が灯り、ネネコの返事を待ち望む。
「そうか、そうなんだ……」
身体が離れ、意思が聞こえなくなると、ネネコの中は自身の声で満ち溢れた。
同時に、いま聞いたのがエルマーの声なのだと、虚ろながらも確かめるのだ。
胸の中が、喜びで一杯になる。
「わかった……行こう、一緒に行こう、エルマー!」
満面の笑顔を浮かべたネネコは、エルマーに微笑んだ。
輝きを取り戻したネネコの心に触れ、エルマーの心も満たされた。
気持ちが伝わったのだ。これからはずっと、一緒にいられる。
これ以上無い、温かな言葉を受け入れたエルマーは頷いた様に見えた。
早速旅立ちの準備をしなければと置き去りにしていたリュックサックを寄せ
持ち出した小道具と合わせて整理していると、神殿の向こう側から
聞き慣れた声……悲鳴が聞こえてきた。
「ギャー!」
ニッチの声だ。
彼の悲鳴が耳に届くと、ネネコとエルマーには即座に判断がついた。
神殿の外、遺跡の何処かで何かが起きたのだ。
ネネコはリュックサックを背負うと、一目散に駆け出す。
「バ、バカ!大きい声出すなって!」
「ご……ごめん」
「まあ多分、この場合は遅かれ早かれ見つかったとは思うけど……」
『どうした、エッジ少尉』
「ゴブリンだ。三匹いる……遺跡の奥から駆け出して来たぞ」
『……確認した。厄介な相手だな』
ボジョ達の前には、二機の特装……モルドフが構えていた。
それぞれにユノン大尉とエッジ少尉が搭乗している。
遺跡を立ち去ろうとした際に、調査中の彼等と鉢合わせになったのだ。
「どどど……どうしよう」
「まさか、オスト・リッチをパクった事がバレたんじゃないの?」
「それどころか、このお宝を強奪しようってんじゃあ……」
ボジョ達が身を寄せ合って震えていると、
ダグ少尉とレノット伍長の姿も見え、合流してしまった。
「どうしたんです、大尉……あれは」
『見ての通り、モンスターだ』
「ゴブリンが三匹。賊集の類でしょうか」
「あまり相手をしたくはないが……見ろよユーノ、奴等の手荷物」
『ああ……おそらくは、遺跡の何処かで見つけたんだろうな』
「一匹だけでもとっ捕まえて、吐かせるか」
『待て……ん?』
帝国軍人達に囲まれて、完全に萎縮してしまったボジョ達の背後から
ふたつの人影が接近してくる様子が確かめられた。
ひとつは人間の少女。もうひとつは……一体何者だろうか。
「ボジョ、ニッチ、コポル!何があったの、大丈夫!?」
「ネネコー!」
「助けて!帝国軍人だ!」
あまりにも早い再会となったが、いまは喜んでいる場合では無い。
ネネコは瞬時に相手の様子を確認する。
人型の特装が二機。生身の人間が二人。間違いなく帝国軍人だ。
「怖くないよ……みんな、エルマーの傍に集まっていて」
ネネコに誘導され、三匹は直ぐにエルマーの後ろに隠れた。
まだ戦うと決まったわけではないが、ネネコは一歩前に出て構える。
『……どう見ても、人間の子供だな。問題は、奥の白い奴……』
「あれは……」
『出る物が出たか。ユーノ』
「待て」
『解ってる。どうするんだ』
「俺が直接接触する。ダグ少尉、レノット伍長は退がれ。君もだ、エッジ」
ユノン大尉は一度指を顎に沿えると、集まった部下に指示を出した。
彼等を離れた位置まで退げると、大尉のモルドフは前進しつつ回線を開く。
「指示を出すまで、その場で待機だ。何もするな。オズ・パッセ」
『はい、大尉』
「隊内の回線はそのまま、広域回線は切断しておけ」
『?……了解しました』
マヤ准尉にも指示を出し終わると、
大尉はモルドフのハッチを開いて外に出た。
ネネコは特装が開く様子に少し驚くが、ユノン大尉の素顔を見て警戒する。
「生身を晒したか……俺達には会話を聞かせないつもりか、ユーノ」
大尉が何かを話し始めたようだが、モルドフのマイクでは音を拾えない。
ただ事の成り行きを見守るしか無い様だ。
状況を察したダグ少尉も腕を組んで眉を顰めている。
視線を一身に感じているエルマーは、足を引き摺ったまま後ずさった。