ネネコ・クローネルの冒険記
〜緑光輝の迷い子〜

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第二章(8)


遺跡を抜ける時に帝国軍人達の前を素通りする、という行為は
ボジョ達にとっては寿命が縮むような思いだったのであろう。
離れた場所まで早足で駆け抜け、気が済む場所まで進むと座り込んだ。

「はあ、はあ……クソー!何だったんだあいつら!」
「危ねえ……オスト・リッチの追求も、お宝の強奪も無くて良かったな」
「だから、大丈夫だって言ったでしょう?」

息を整えると、彼等は一度別れの挨拶を済ませたばかりだと思い出した。
埃を払って立ち上がると、ボジョ達はネネコに向き直る。

「また助けられちゃったな。いやあ、毎度悪い悪い」
「いいよ。だけど気をつけてね。みんな、おっちょこちょいだから」
「そうそう、ネネコさ……オレ達、聞き忘れた事があったんだけど」

「え?どうしたの?」
「北ってどっちだっけ?」
「へ?」

「北っつったら地図で見たら上だろ?ソッチで間違いないよな?」
「だからそうじゃないって。太陽が遠くに昇ってるだろ?だからコッチ」
「この通り、北の方角が解らなくて困ってたんだ……」

意見が噛み合わずに、ボジョとニッチが掴み合うのを見て頭を抱えると
ネネコは心底呆れてしまった様子で口を開く。

「あなた達……方角も解らずに、何処に行こうとしていたの?」
「カアちゃんの所に帰ろうかと思ってさ」
「そうそう。北の渓谷に住処があるんだ」
「カアちゃん?もしかして、みんなは兄弟だったんだ?」

「違う違う。オレ達みんな拾われっ子だからさ」
「親分のカミさんが、オレ達のカアちゃんってわけ」
「そっか……ママの所に、帰ろうとしていたんだね」

理由を聞いて心に余裕が生まれたネネコは、
意地悪は言わずに力になってあげようと決めた。
しかし、コンパスも地図もひとつしかない。
少し考えた後、ネネコは手頃な大樹を選び彼等に登るよう促す。

「何?何?木登りすると、何かあるわけ?」
「いいからいいから。エルマーは、下で待っててね」

ネネコもボジョも、ニッチ、コポルも慣れた様子で空を目指して昇っていく。
声を掛けられたエルマーは瞳に光を灯すと、大人しく様子を見守った。

「よいしょ、っと……うーん、あれが一番目立つかな」
「ネネコ、登ったぞ!どうするんだ?」
「ほらみんな、わたしが指差す方角を見て」
「え?あっち?何かあるのか」

「キノコの形をした傘がかかった大樹があるでしょう?あっちが北北東」
「そ、そうなのか!」
「まずはあの樹を目指してね。
あれだけ背が高い木なら、何処の木から眺めても解るよね」

「おい、ネネコ!オレ達が目指すのは北に抜けた渓谷だって!」
「待てよニッチ。まだ話の続きがあるんだろうよ」
「木の下まで辿り着いたら、直ぐ目の前にリュシード本河が見えるから」
「うんうん、それで?」

「後は河に沿って歩き続ければ、真北を目指したまま森を抜けられるよ」
「お……おお!スゲー!」

ボジョ達が喜ぶ様子は少し大袈裟にも見えたが、安心した証拠なのだろう。
彼等に説明を済ませると、今度は樹を降りる様に促した。
エルマーがじっと見守っていた事に気がつき、ネネコは微笑んで見せる。

「多分無いと思うけど、間違って河を南下しないようにね」
「大丈夫!自身も根拠も無いけどな!」
「とにかく、進行方向に向かって歩けばいいんだ。とにかく、上を目指す」
「それじゃあ駄目なんだってば……」

話はまとまったようだ。
彼等を見ていると一抹の不安を隠し切れないが、それも茶飯事なのだろう。

「わたしの分も残り少ないけど……干し肉を分けてあげる。少しずつ食べてね」
「おお!本当、至れり尽くせりで……」
「オレ腹減ってたんだ!食おうぜ!」
「だから、少しずつだって言われたばかりでしょうが」

「それじゃあ……今度こそ、お別れだね」
「ん!最初から最後まで、助けられてばっかりだったなあ」
「お前みたいな人間もいるって解って、良かったぞ」
「中々楽しかったし。また何処かで会おうな、ネネコ」

「うん!みんなも、元気でね。無事にママの所に帰ってね」
「ネネコ、お前もな!」
「あんまりトウちゃんやカアちゃんに心配かけるなよ!」

やはり別れは、笑顔のまま迎えたい。
事の顛末までドタバタと乱れ放しではあったが、彼等の言う様に楽しかった。
ネネコは手を振ると、ボジョ達が森の中に消えていくのを見守った。

「じゃあなネネコ、あばよー!」
「ばいばい、またね!」
「達者でなー!」

賑やかな彼等の声が周囲の音に飲み込まれていくと、途端に寂しさが募る。
しかし、遺跡の時のような孤独感に苛まれる事は無かった。
何よりもいま、そばにはエルマーがいる。

「みんな、行っちゃった……わたし達も行こう、エルマー」

エルマーは相変わらず何も話さないが、ネネコの言葉に頷いたように見える。
これからは一人旅ではない。
エルマーと一緒の二人旅となるのだ。ネネコとって、何よりもの喜びだ。

「さて、と……わたし達も、一度リル・ディスに帰ろうか。
もう食料もほとんど残ってないし……おばちゃん達にも会いたくなっちゃった」

ボジョ達が母親の元に帰るのだと解った事もあるだろう。
爛々と好奇心に苛まれて探検している時には忘れがちだが、
ネネコもまだ幼い子供だ。人恋しくなる事が自然であろう。

「さあエルマー、わたし達も出発しよう。
これからもきっと、楽しい事がいっぱいあるからね!」

地図とコンパスを取り出し、現在地と目指すポイントを絞り込むと
流れる汗を大きく拭い、ネネコは歩き始めた。
もちろん、エルマーもその後に続く。

ネネコとエルマー、永く続く二人の冒険の旅がその第一歩を示したのだ。


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