ネネコ・クローネルの冒険記
〜緑光輝の迷い子〜

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第二章(11)


遺跡の調査期間を終え、第一小隊の面々は仮設キャンプに合流しようと
特装独特の排気音を周囲に響かせながら、薄暗い密林の中を移動していた。

「機械人に結びつく様な証拠や手掛かりは得られなかったな」
『判断するのは俺達じゃない。嘆く事も無いさ』
「考古学者じゃあるまいしな。俺は、何も嘆いちゃいないがね」
『だが、どうした?』

「……言わずもがな、だろう。引っ掛かるさ」
『ネネコ・クローネルか』
「どちらかと言えば、連れの巨人の方がな」
『エッジ、お前が話した様にまた会う事もあるかもしれんな』

「何処か他人事みたいに言うよな、ユーノ」
『……どうかな』

エッジ少尉は相変わらず、件の白巨人から話題を逸らそうとはしなかったが
やはり、ユノン大尉は知らぬ存ぜぬの構えを解く事は無い。
彼の様子を窺うほどに、疑心と不信感は募っていった。

「上にはどう伝えるんだ?俺達の様に聞き分けは良くないだろう」
『お前が聞き分けが良いって?……報告書は提出するさ。俺がな』
「納得してもらえるのかね」

少尉との付き合いはそれなりに長いユノン大尉ではあったが、
彼がここまで粘着的な気質の持ち主だという事が意外だと感じた。
次第に、逐一返答に気を遣うのも面倒になってきたが、突然の報が入る。

「大尉、気になる事が」
『どうした、伍長』
「南東の空です。まだ距離があって断定出来ませんが、これは黒煙では?」
『何?』

通信は各機同時に入る。
モルドフ搭乗の大尉とエッジ少尉、そしてフィチェンカのダグ少尉は
足を止めて遠方に注意を向けてみるが、やはり事態は飲み込めない。

「准尉、伍長。映像をこちらへ回せ」
『了解……転送しました。確認をお願いします』
『来た来た。これは……おい、ユーノ』
「ああ。たしかに夜の闇とは異なる影が……画像下部の光は?」

「火災か!?」
『し、しかし……オルデマスが炎上するなどという事は……?』
「疑っても仕方ねえだろう!
さらに接近して確かめるしかない……ユーノ!」

不鮮明な画像からは確証は得られないが、この不自然な影から察するに
何らかの原因により、火災が発生している事は推測出来る。
オルデマスが燃える、などという事は過去の歴史を顧みても稀だ。

「……准尉、伍長。周囲の全小隊に通達。
各機ポイントSM563-678、エリア52の状況を確認。非常召集だ。
各小隊のオズ・パッセには、リアルタイムで情報の送受信を継続させろ」

「りょ、了解!」
「あなたは対象ポイント、エリアの観測を続けて。
情報端末の統括と管理はこちらで受け持つわ……少し落ち着きなさい」
「は、はい……すみません」

「モルドフは最大加速で現場に急行する。エッジ、来てくれ」
『解ってるよ。伍長、コンテナを開けろ。冷却弾を回収する』
「フィチェンカとオズ・パッセは連携しつつ合流しろ。
ダグ少尉、いいな?そちらの指揮は一任する」
『了解しました』

大尉は指示を出し終わると、モルドフを前傾姿勢に倒して加速を始める。
傾斜の激しい木々の間をぬって行き、エッジ少尉も後に続いた。
間もなく、後方のオズ・パッセからひとつの通信が入る。

『大尉』
「続けろ」
『第四小隊と通信が繋がりません』

「第四小隊……ザクスの部隊か!」
『電波障害か……故意に通信を遮断しているという事か?』
『障害による電波の撹乱は考えられません』
「他の小隊はどうなんだ、准尉!?」

「すでに送受信の態勢は確立しているわ」
『こいつは……』
『早計な判断は控えろ。こちらからの回線は開いたままにしておけ』
「了解しました、大尉」

オズ・パッセの広域回線を介して、各小隊からの通信や情報が
モルドフの操作部内にも連続して響き渡ってくる。

対象区域に火の手が上がっているという事実がより現実味を増し、
緊迫した空気が軍人達それぞれを支配し始めていた。
巧みな操作で速度を落とす事無く、対象との距離を縮めていくと
密林の空が黒く塗り潰され、赤々と燃える光景が彼等の視界を包み込んだ。

「……ちっくしょう!オルデマスが……オルデマスが燃えてやがる!」
『チ……冷静さを欠くな、エッジ』
「考えてる暇なんてねえだろう!消火を始めるぞ!」
『冷静になれ!……ポイントをずらして冷却弾を使用する。
弾数は少ない。可能な限り、効果的かつ効率的に消火に当たるんだ』

「解ってるよ!ポイント割り出しは任せる……行くぜ!」

オルデマスは世界的にも価値のある自然保護区として指定されている。
ベイジラがどれだけ繁栄しようと開発が着手される事は過去一度も無かった。
地元民の意識や敬愛も深く、炎上などという事態は断じて許されない。

そして、地方駐留の東リル・ディス駐屯基地の軍人達にとって、
文化遺産の保護は課せられた使命であり、任務だ。
この事実が、寄生虫と揶揄される帝国軍人の正当性を主張する為の
条件であり、政治的友好を保つ為の一条約でもあった。

(オルデマスの気候で、自然発火が起こる事象など考え難い。
人為的な、故意による破壊だと考えるのが筋だろうが……
第四小隊…考えたくは無いが、まさか中佐の差し金によるものか?)

眼前を赤く覆う業火を前に眉を顰めたユノン大尉は苦悶の表情を浮かべる。
機械人発見の為の手段がオルデマス炎上とどう結びつくのか判断出来ないが
彼の脳裏には、亜人将校の存在が深くこびりついていた。

「ユーノ!始めるぞ……冷却弾を発射する!」
『許可する。鎮火まで一切の油断をするな!』

モルドフの両腕に構えられたライフルが鈍い音と共に発光すると、
火中へと向けて氷状の冷却弾が飛び込んでいく。
しかし、広がり続ける炎に飲み込まれる様は、彼等の心理を圧迫した。


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