ネネコ・クローネルの冒険記
〜緑光輝の迷い子〜

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第二章(12)


『第三小隊のクノ・ベスタ中尉です。間もなくエリア内に到達します』
『第七小隊、同じく対象区域内に到達。指示を仰ぎます』

「第一小隊のユノン・マーダだ。密集する事はない。
有効範囲内を広く使い、各小隊、柔軟に事態に対応しろ」
『了解』
『モルドフ四機、各位置に配置!』

大尉とエッジ少尉がいち早く消火作業を開始してから数分が経過したが
オルデマスに展開した各小隊が徐々に集合、連携を始めていた。
しかし、火の勢いが止む様子は見られない。

「クソ……火の手が回るのが早過ぎる……!」
『エッジ、オズ・パッセから広域画像を入手しろ』
「あ?……こいつがどうした、ユーノ!?」

「これは今現在の区域内の合成画像だ。三十分前の同区域の画像もこちらから転送する」
『……来た。こいつは!?』
「解るだろう?火の拡大が極端に早い。
エッジ、冷却弾の着弾時、妙な発光に気がつかなかったか?」

冷却弾はある程度の間隔を置きつつ、連続して使用する必要がある。
怪訝な表情で次の弾を装填しつつ発射すると、エッジ少尉は目を丸くした。

「!?……魔力干渉?」
『冷却弾の蒼晶石が、炎と接触する際に反発して起こる発光だ』
「て事は……この火災の基点となっているのは、紅晶石って事か!?」
『人為的な被害だという事が確定したな』

「まずいぞ……紅晶石が基点となっているなら、消火は容易じゃねえ。
同質量か、それ以上の蒼晶石が必要になるんじゃないのか!?」
『どれだけの晶石が使用されたのかは推測するしかないが、
被災区域の広さから考えても、俺達が所持する冷却弾では賄えない』
「!……どうするんだ!」

『大尉、提案します』

大尉とエッジ少尉の会話を傍受していたフィチェンカのダグ少尉が、
ようやく区域内に合流したようだ。肉眼でも確認できる。

「話せ、ダグ少尉」
『フィチェンカの冷却装置を動力部に直結、広域放射します。
フィチェンカは使用出来なくなりますが、僅かな効果でも期待出来るかと』
『……雀の涙程度の足しだが、何もしないよりはマシだな』

「……許可する。マナ准尉、各小隊に通達。
フィチェンカ全機を対象区域に沿わせる形で配置。
各機の調整を迅速に行え。準備が完了し次第、作戦を開始する」
『了解しました』

「准尉、伍長もダグ少尉に手を貸せ。エッジ、俺達は継続して消火作業だ」
『あいよ!』

苦肉の策である上に、大した効果も期待出来ないだろう。
だが、やるしかない。
数分に一歩という牛歩で前進しながら、大尉は苦悶の表情を浮かべる。

『ユノン大尉、第二小隊のパゼーです』
「合流出来たか、少尉」
『ひとつ報告が。こちらに合流する際、森の中に人間の姿を確認しました』
「……何?」

『西部は逃げ出す動物や怪物達が溢れ、混乱している状況ですが
逆走するように……被災区域を目指す、その……子供大の影が』
『子供……まさか、ネネコ・クローネルか?ユーノ!』
「パゼー少尉、一緒に特装ほどの大きさの影は見られなかったか」
『影は尋常では無い速さで動物達の群れに飲まれてしまった為に
我々が確認できたのも一瞬でした。詳細は解りません』

遺跡で別れてから、まだ四日しか経過していない。
有効な移動手段も無く、徒歩で移動しているのだとしたら
まだオルデマスの中に取り残されていてもおかしくはないだろう。

「……了解した。第二小隊も他小隊と連携して消火作業を始めろ。
エッジ少尉、現場の指揮を一時一任する」
『行くのか、ユーノ!』
「直ぐに戻る……そうでなくては、救助も出来んだろうしな」

大尉はライフルを後部ラックに固定すると、
第二小隊から得たポイントを目指して機体を走らせた。
直行するには炎の中を突っ切る必要があるが、構う余裕は無いようだ。


軍人達が消火作業に苦戦している最中、
ネネコ・クローネルはたしかに被災区域内で奮闘していた。

「みんな、はやく逃げて!このままだと、炎に飲み込まれちゃう」

森の奥から次々と、動物や異形の怪物達がこちらに向けて飛び込んでくる。
波に飲まれては押し戻される所か巻き込まれて重傷を負う羽目となるだろう。
炎の中心を目指しつつ、ネネコは懸命に声を張り上げ続けている。

「風は西から東に向けて吹いてる……みんな、逃げるべき方角は解ってるんだ。
だけどどうして、森が燃えるの?……エルマー、エルマーは何処!?」

混乱の火中、ネネコはエルマーの姿を探す。
燃え盛る一面の炎を目の当たりにしてから、エルマーの様子がおかしい。
瞳が不安定に点滅し、後ずさりする場面も見られた。恐れているのか?

「エルマー!エルマー……いた。
無理しないで。何処か遠くに離れていてもいいんだよ」

エルマーは、ネネコよりも僅かに離れた方向に確認出来た。
混乱の波に体を打ちつけられながらも、少しずつネネコの場所を目指す。
ネネコから駆け寄りエルマーと合流すると、機械的な独特の排気音が響いた。

『ネネコ!ネネコ・クローネル!』

業火の雄叫び、そして獣達の悲鳴にかき消されそうになるが
焼け爛れた木々の陰から、特殊アーマーが姿を現した。
聞き覚えのある声がネネコに向けて放たれる。

「!?……その声、ユノンさん?ユノン・マーダさん!?」
『ネネコ、此処で何をしているんだ。
君も避難するんだ……此処に居ては危険だ!』

火中で特装から身体を出すのは自殺行為だ。
いつかの様に顔を見せる事は無いが、搭乗しているのは
間違いなく帝国軍人のユノン・マーダ大尉の様だ。

「駄目だよ!まだ、逃げ遅れた子達がたくさんいるの!」

(逃げ遅れ……まさか、動物達の事か?……馬鹿か、この子は)

『非常事態だと、解るだろう!命が惜しければ逃げろ!』
「嫌だ、見捨てられないよ!
それに、私に逃げろというなら、ユノンさんだって避難しなくちゃ!」

『俺達はいま、消火作業に当たっている真っ最中だ。
俺の事はいい。逆走するなんて真似をしているのは、君ぐらいだぞ!』
「ユノンさん、ひとつ教えて」
『何だ!』
「何故森が燃えるの?誰かがやった事なの!?」

『!』

ネネコの問いかけが、大尉の胸に突き刺さる。
あまりにも純粋な声だからこそ、大尉の心を深くえぐった。

『……断定は出来ないが、俺達の仲間がやった事だろう』
「そんな……人が、人がやれる事だって言うの!?」

驚きで目を丸くしたネネコが、露骨に怒りを露にした。
少女の挙動、言動ひとつひとつが大尉を打ちのめした。

「消火作業をしてる、って言ったよね?
どうなの、火は消せそうなの?オルデマスは死なずにすむの!?」
『やるしかない。俺も直ぐに仲間の所に戻らなければならない』
「だったら!
ユノンさんは戻って!わたしに構ってる暇なんて、無いでしょう!」

「……解った。避難はするんだ、ネネコ・クローネル」

ネネコの言葉は全て正論であった。
大尉は何も言い返す事が出来ず、また救助の為に急行した事が
結果的に無駄に終わり、辛辣な言葉を受けた事実を引き摺った。

「ユノンさんはやるしかない、って言った……
火を消すのは、難しいっていう意味なんだ」

距離を離していくモルドフの姿を追うと、大尉の言葉を反芻して
ネネコは赤に覆われた視界に向けて目を移した。
逃げ延びようと必死な動物達の恐慌は止まらない。


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